執事とメイドの裏表

基本的にイギリスのフランス革命前後から戦前くらいまでの使用人が舞台になっています。産業革命で農地を追われたり過酷な工場労働に従事せざるを得ないワーキングクラスが多い中、転職が容易なので待遇が保証されていて雇い主にクレームをつけられるという恵まれた環境に見えます。ただ、悲惨な話はかなり割愛されている――別の言い方をすると美化されている――と割り引いて読んだ方がいいかもしれません。一応「テス」に触れたりしていますけどね。後、確かに使用人になるのがワーキングクラスの出世コースという側面はあったと思います。経験者は強いけど新人になるのは競争率高い、みたいな。
上流階級の人間が実生活では自分の身の回りのことも満足にできず教養すらないのに対してワーキングクラスの方が努力家で賢いけど身分の壁が越えられないって身につまされますわ。
ただ、子育てに障害が多すぎて上流階級の性格がねじれるのもよくわかります。そういえば、王室でも10代で外国にお嫁入りしたら祖国から連れてきた使用人は全員帰国させられて、周りは風習の違う言葉も通じない相手ばかりで妃が孤立化して、場合によっては精神疾患の症状と推測される状態になったという話をたまに聞きますね。
話は変わるけど、お金持ちっていうと黒いドレスに白いエプロンのメイドに囲まれているイメージがあったんですけど、あれは幻想だったんですね。女性は(主に経済的な理由で)男性使用人が雇えない場合の代替だったそうなので、大勢雇うぐらいなら全体の人数は減ってでも男性を雇うでしょうね。
ふと思ったのですけど、「高慢と偏見」で主人公のエリザベスがミスター・ビングリーの義兄でお金持ちのミスター・ハーストにあっさりとした煮込み料理(シチュー?)が好きと答えたら満足に会話もしてもらえなくなったと書いてあるのって、ミスター・ハーストが大食いで気取っているとしか思っていなかったけど、ベネット家では上流階級用料理も満足に作れない料理人しか雇えないから相手にされないっていう意味だったのかも。