その服いくらになりますか

着物好きとして着物を少しは持っている上におかげ様で貰い物もあるんですけど、中には箪笥の肥やしだったり、これは要らないなというのもあるわけです。でも、こういう着物ってどうしようもないわけですよ。時代ものを読んだり見たりすると貧乏になったからって着物を売ったりするシーンがあってストーリー上は同情しつつも、内心羨ましかったりします。
で、どうして着物が売れなくなったかっていうと科学が発達して色々なものが大量生産できるようになって、「布・糸」の価値が暴落したからでしょう。昔は花嫁衣装すら古着で一生新品なんて着ることのない人たちが相当数いる程「布・糸」が足りなくて貴重だったわけですから。
つまり、昔は50万で買った着物を持っているというのは40万の現金を持っているというのと同じ意味だったんです。*1今は50万の着物も買った途端に金銭的には無価値になります。まあ、リサイクルショップがありますけど、1万にもならないんじゃないでしょうか。
だからお店目線だと「この着物はずっと50万で売っている。原価もそれ位かかっている。50万の価値がある。」だし、お客目線だと「この着物はずっと10万の価値しかない。昔はちゃんと実質10万で売っていたのに今は40万も高くなった。」で、どっちも正しいわけです。1円にもならないものに50万も出そうなんて、よっぽどその着物が好きな金持ちが道楽しているだけでしょう。
例えば今でも絵とか芸術品を売る時に「これはいざとなったらいくらで売れますから、財産になりますよ」と言ったりしますね。(私には縁のない世界なのでドラマで見ただけですけど)こういう財産価値が無ければ絵を買う人は減るでしょう。金(ゴールド)や宝石だって同じ事です。着物離れを嘆く方の中には、いい着物はブランドもののバックと同じ位価値があるから買って欲しいなんて仰る方もいますがとんでもありません。ブランドもののバックはリサイクルショップで着物以上の価格で引き取ってもらえます。売値が同じでも買った後の金銭的価値は全然違います。
お金持ちだったけど破産した年配の方の体験談で、両親が頑張って嫁入りに持たせてくれた着物が一山いくらで、しかもものすごい低価格にしかならなかったっていうのがありました。結婚の時に着物を持っていかなくなったのは着物離れだけじゃなく、着物に財産価値がなくなったからでしょう。昔の人が無理してでもお金を作って娘にいい着物を揃えたのは、お洒落を楽しんで欲しいからでも、高品質生活必需品を着て欲しいからでもなく、今で言うなら娘名義の貯金通帳を渡す気持ちに近いでしょう。
これは着物だけじゃなく洋服でも同じですし、お洒落用だけじゃなく普段着でも同じです。なぜユニクロしまむらや青山が流行るのか、まだまだ着れるような状態の服を捨てるのか、安いものを使い捨てするスタイルを非難したって仕方ありません。昔は布のきれっぱしだって一応値段をつけて買い取ってくれるところがありました。収入に対して高めな服を買ってもいざとなったらその分いいお値段で引き取って貰えるなら貯金と同じ効果があるので純粋な贅沢ではないわけですよ。一方、服が財産価値のない消耗品ならお金を出すのは単なる贅沢です。多くの人が、できるだけ安くすませて1円でも貯金しようとするのは当然の事なんでしょう。
着物も流行ってきたけど、ウン十万のものがどんどん売れるよりそこそこの品質・そこそこのお値段っていう製品の品揃えが豊富になりましたし。まあ、それはそれで嬉しいんですけどね。

*1:専門家じゃないので数字はいい加減です。信じないでください。