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「「ドイツ帝国」が世界を破滅させる」という本を読んだんですけどドイツのことを「ラインの向こう」と書いているのを見て内容が吹っ飛んでしまいました。「ラインの向こう」ですって。元はどうなっているのかわかりませんけど、日本語に訳すときにドイツを「ラインの向こう」とわざわざ訳さないと思うのでフランス人である著者の表現と思って間違いないでしょう。
ちなみに、ライン川っていうのはここにあります。

今の国境はこんな感じです。

川沿いの町はこんな感じです。

えーと。ラインの両岸とも――現在もフランス領であるストラスブールとスイス領のバーゼルを除いて――東の果ての島国の住人からするとドイツそのものに見えますよ。
ところが、「ラインの向こう」にはちゃんとした根拠があります。フランスというのは最初の国王・クローヴィスがラインから(大まかにいうと)ピレネーまでを支配したというのが一つの始まりとみなされているからです。クローヴィスっていうのは日本ではあまり知られていないと思いますけど、4〜5世紀の人物でメロヴィング朝を開いた人物です。有名なカール大帝(=シャルルマーニュ)の家系が家宰をしていた王朝ですね。4〜5世紀っていうのは有名なゲルマン民族大移動の時期で西ローマ帝国の滅亡が有名ですけど、もちろん全ゲルマン民族がローマを目指したわけではなくフランスに移動した部族もいてその長がクローヴィスです。
ジャンヌ・ダルクがシャルル7世のためにランスを攻め落として即位式、というので有名なランスですけど、どうしてフランス王の即位式がランスなのかというとここでクローヴィスが洗礼を受けてキリスト教徒になった記念の地だからです。つまり、フランス王というのはクローヴィスの後継者ってことで、日本でフランス王家の始祖というとルイ・カペーが有名ですけどこれは血統上の話で由緒的にはクローヴィスからということになります。
というわけで、フランス人にとってクローヴィスというのはアイデンティティにかかわる人物で、そのクローヴィスが支配した「ラインのこちら側」=フランス領であるべき土地なんですねぇ。時々論争になる「最後の授業」という作品があって、フランス人がこういうのを書いてしまえる理由がたぶんこの辺にあります。この「ラインの向こう」意識を前提にしてフランスの歴史を見直すと色々と面白いんじゃないかな。
関係ないけど、地図って難しいですね。この地図を描くのだけで1か月くらいかかってしまいましたよ。