櫛はくるしみ

日本では髪飾りが身元証明になっていたという話で興味深いものがあります。
かつて売春が禁止されていなかった頃の話です。雇い主は女性の身の回りの品を支給していたのですが、その際櫛の形を決めていたそうです。なぜかというと逃亡した時に見つけやすくなるから。
昔の櫛といって思い浮かべるのは漆塗りで細かい模様のある工芸品でしょう。でも、もちろんこういうのはお金持ちのお洒落用で、大半はシンプルなものを、毎日髪を整えた後そのまま挿して飾りにしていました。何も知らない逃げた女性からしたら、決められた形といっても見るからに変わっているわけではなし一見普通の櫛ですし、追われている身で髪ぼうぼうなんて目立つことはできませんから、そのまま使い続けていたようです。私の推測ですが、着物や帯はさすがに変えたと思います。当時は今と違って身一つで行って、その時着ているものを売り、グレードダウンした着物を買ってその場で着替えて帰るタイプのお店もありましたし。
ところが、追いかけている方は櫛で探すわけです。頭の先にあるものですから隠しようがありませんしね。
裏事情を知らない女性は気づかないで、「私は逃亡者です。」という張り紙を着けて歩いているみたいなもので、結構捕まるかなり効果的な方法だったとか。