王宮の中心で愛を叫ぶ

昔、男性が身分違いの女性を好きになったら…。
1.諦める
2.政略結婚した上で愛人にする
3.政略結婚した上で妻はほったらかしにして愛人と楽しく暮らす
フランスのアンリ2世が妃のカトリーヌ・メディチと結婚したものの愛人の方を大事にしていて、なかなか跡取りに恵まれなかったのも仮面夫婦状態だったからという説もありますね。もともとフランスの公式愛妾制度は、ある王様が妃より愛人の方が好きで、公式行事や儀式の時は王妃と夫婦として行動しなくてはならないのが不満で、ずっと好きな女性と一緒にいたいからといって、公式の場で王妃の代役を勤める役職を作っちゃったのが始まりです。*1さすが愛の国フランス。フランスではありませんが、中には王妃とは別居して(別名:監禁)愛人と楽しく暮らした王様もいます。

4.なにがなんでも好きな女性と結婚する
傍流だったらいいのですが、跡取りとかなら大変でした。有名なのは王冠をかけたエドワード8世ですね。地位を維持したままなら、ハプスブルクのフェルディナンド皇太子がいます。サラエボで殺され、第一次世界大戦のきっかけになった人物です。あまり知られていませんが、伝説級の恋人にポルトガルのペドロ1世とイネスがいます。イネスはもともとペドロの妃に付いてきた女官だったのですが、ペドロが妃よりイネスの方を好きになってしまい、怒ったペドロの父*2アルフォンソ4世にイネスは追放されてしまいます。それでもめげずに密かに文通したりしていた二人ですが、妃が死亡するとペドロはイネスと別荘で暮らし始め、王宮に帰ってこなくなります。ペドロの再婚相手探しをしていたアルフォンソはカンカンです。遂にはペドロが狩りに出かけて留守中にイネスは殺されてしまいます。もちろんペドロは怒り狂い、親子で内戦になりかかったのですが、アルフォンソの妃かつペドロの母が間入って和解させます。和解条件にはイネス殺害犯を罪に問わないというのもあったため、ペドロは父が死んで即位するまでは我慢してすごし、王になるとイネス殺害犯を逮捕して殺してしまいます。それも生きたまま心臓をえぐりだしたらしいです。また、イネスの死体を墓から出し、王妃の衣装を着せ、王妃の椅子に座らせ、貴族たちに挨拶のキスをさせた後、改めて王妃として埋葬し直しました。キスに関してはただの伝説で事実ではないとも言われていますが、王妃になるための儀式の一環として実際したんじゃないかと思います。愛の結晶化作用によって、イネスは王妃姿も美しい、と感動していただろうペドロはともかく、付き合わされた貴族には同情を禁じ得ません。その後もペドロは再婚することなく、今はイネスと同じ場所で眠っています。このお墓が変わっていて、普通夫婦は隣り合って葬られるのに、ペドロとイネスは足を向けあって葬られています。復活した際に目を覚まして起き上がったらお互いの顔がちゃんとみえるように、ペドロが指示したそうです。しかしながら、ペドロの息子にはには名君と言われているアヴィシュ朝の創始者ジョアン1世がいるのですが、ジョアンは1357年生まれの庶子で、イネス殺害は1355年のことなのです。ペドロ1世、あなた再婚拒否したんちゃうんか!と言いたくてたまりません。(ポルトガルの為にはよかったですけどね。)
ところで、以前テレビでポルトガルの観光誘致番組を見かけた(確かNHK)ら、ペドロとイネスの紹介をしていたのですが、前半(イネスの死まで)だけで後半はカットされていました。教育的配慮でしょうけど、無茶苦茶ものたりませんでした。心臓えぐりとか死体にキスがなかったら、よくある悲恋物語じゃないですか。世にも珍しい純愛残酷物語なのに。

*1:王妃不在の時は王族内の序列で代役が決まりました。

*2:当時ペドロは皇太子でした。